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阿部 泰裕 (理学博士)

株式会社セレージャテクノロジー
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4次元ファジィ球面上の物理

なぜファジィS4なのか   すべてが蒸発して無くなってしまうような火の玉世界を想像したことありますか?そのような高温・高エネルギーの世界では素粒子ですら蒸発してしまうかもしれません.現代の物理学では,これ以上エネルギーを高めることができないような,ある高エネルギー極限が存在すると考えられています.そのようなエネルギー・レベルを超えると,いかなる物理法則も適用できず,時空間の概念すらも無くなってしまいます.このエネルギー極限は,プランク・エネルギーとよばれ,物理定数の組み合わせで一意に与えられます.その値は,およそ1.22×1019 GeV (1 GeV = 109 eV = 1.602×10-10 J)です.高エネルギー物理学理論の主な研究対象として,このプランク・スケール世界の物理を解き明かすことが挙げられます.研究者のなかには,プランク・スケールでは紐(ひも)だけが残り,すべては紐から創成されると考えている人たちもいます.非常に魅力的な話ですが,そのような高エネルギー領域の実験・観測データは現状では知られていないので,真相はまだ確定していません.

プランク・エネルギーの存在それ自体は,幾何学において,長さにこれ以上短くすることができない微小極限があることを示しています.この長さはプランク長とよばれ,およそ1.62×10-33cmの値をもちます.微視的な座標は,このプランク長を単位とする離散的な値を取らなければなりません.これは,量子力学において相空間に課せられる条件とよく似ています.したがって,プランク・スケールでは座標空間それ自体に不確定性定理が成り立つと類推できます.このことは,プランク・スケールでは非可換な幾何学が現れることを意味します.

非可換な幾何学をN次元の正方行列をもちいて表現したものがファジィ空間です.空間を行列で表現することを空間のファジィ化とも 言います.物理において,時空間を離散化する手法としては既に三角化や格子化などが知られていますが,ファジィ空間の使用は新しい離散化の手法を提供します.また,離散化についての概念的な視点とは別に,ファジィ空間には実践的な利点もあります.つまり,ファジィ空間は数値計算に適しているという点です.これは,ファジィ空間上の計算が行列演算に帰着すること及び最近の数値計算技術の発展によりこれらの計算が益々容易になることから明らかでしょう.したがって,プランク・スケールの物理を研究するに当たり,「非可換な」足場となる4次元のファジィ空間を探したくなるのは自然なことです.とくに,4次元球面S4のファジィ化は重要です.というのも,S4はスピン構造をもつ最も簡単な4次元コンパクト空間であるからです.(空間がコンパクトでなければ,有限サイズの行列をもちいて空間を記述できないので,ファジィ空間はコンパクト空間に対して構成されること,及び,スピン構造は現実的な物理模型を構成するのに必要であることに注意してください.)したがって,ファジィS4は高エネルギー物理の研究に有用であると期待されます.

構成法   ペンローズのツイスター空間(つまり3次元複素射影空間)がS4を底空間とするS2束であることをもちいて,ファジィS4を構成することができます.構成法の詳細についてはarXiv:hep-th/0406135を参照してください.

シミュレーション   ファジィS4を構成するRスクリプトはここにあります.(パラメータnを任意の正数に選んで,行列の次元Nを決めることができます.) Rは統計計算のためのフリー・ソフトウェア環境で,GNUプロジェクトの一環として提供されています.行列計算などの便利なパッケージがそろっており,非常に便利です.具体的な計算法については,例えば,2次元ファジィ球面からの揺らぎを参考にしてください.

興味   M理論のコンパクト化模型におけるファジィS4の導出(arXiv:hep-th/0512174参照)
ファジィS4上のブラックホール解(調査中)
ファジィS4上での重力子散乱振幅の計算(予定)


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