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阿部 泰裕 (理学博士)

株式会社セレージャテクノロジー
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リーマン予想の物理的解釈


リーマン予想は数学における重要な未解決問題の1つです.よく知られているように,これは「ゼータ関数の非自明なゼロ点の実部は1/2となる.」というシンプルなものですが,150年以上も未解決のままです.この問題が特に重要なのは,この予想が素数の分布と密接に関係している点にあります.これはゼータ関数のオイラー積表示をもちいるとこの関数がすべての素数にわたる直積で表されることからも明らかでしょう.以下では,素数と結び目の対応関係をもちいて,このリーマン予想がホロノミー形式の枠組みでどのように解釈できるか紹介したいと思います.

ホロノミー形式は,共形場理論のホロノミー演算子を無質量ボソンの散乱振幅を与える生成汎関数としてユニバーサルに理解するという枠組みです.(その背景・形式化についてはこちらを参照してください.) したがって,この形式をリーマン予想に適用するには,まず「素数の生成演算子」を定義する必要があります.そのためには初等整数論に出てくる量——例えば,ルジャンドル記号,ヤコビ記号,ガウス和など——を量子的に扱う必要があります.

一方で,共形場理論と密接に関係しているアーベル型チャーン-サイモンズ理論をもちいると電磁場の理論に現れるガウスのリンク数を簡単に表せることが知られています.ホロノミー演算子はチャーン-サイモンズ作用の一般化とみなすことができるので,このことからアーベル型ホロノミー演算子をもちいてリンク数の一般化が得られることが予想されます.実際に,2次元の共形場が定義されるリーマン面をトーラスとみなし,そのゼロモードのホロノミー演算子を考えると,このゼロモードの演算子を使って一般化されたリンク数を表すことができます.

そこで,数学的に知られている結び目と素数の対応関係——より詳しく言うと,リンク数とルジャンドル記号の対応関係——を使うと,ゼロモードのホロノミー演算子にルジャンドル記号を演算子として組み込むことができると考えられます.これは,アーベル型ホロノミー形式の初等整数論への応用とみなせます.さらに,ガウス和をルジャンドル記号のフーリエ変換であるとみなすと,ガウス和をルジャンドル記号の正準共役な演算子と解釈することができます.ガウス和は奇素数だけに依存する量であり,その絶対値は奇素数の平方根となります.いま考えているホロノミー形式ではこのガウス和だけが奇素数に関する演算子なので,物理的にはこの演算子(より正確にはこの演算子にある乗数を施した冪)を素数生成の演算子とみなすことが自然です.

以上の議論から,アーベル型ホロノミー形式をもちいると「素数の生成演算子」を定義できることはわかりましたが,これがなぜリーマン予想と結びつくのかについては,全く触れませんでした.しかし,実は,ゼロモード・ホロノミー演算子を計算するとゼータ関数の反復積分表示が現れることがわかります.そこで,このゼータ関数をオイラー積で表し,その素数部分をガウス和の演算子に置き換えることによって,ホロノミー形式の枠組みでゼータ関数の量子的な表現を得ることができます.また,この置き換えを施したゼロモード・ホロノミー演算子をもちいて同じ奇素数どうしの散乱振幅を計算することができます.散乱する奇素数が1つだけの場合,散乱振幅は物理的に当然ゼロとなるはずです.この事実を上記の散乱振幅に適用すると,リーマン予想に物理的な解釈を(ホロノミー形式の枠組みで)与えることができます.その詳細についてはarXiv:1005.4299を参照してください.



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